第48話 内緒ですよ 〜後編〜 

二人で居酒屋へ行ってから数ヶ月・・・
もう12月になっていた。

「相手が意識すると、こちらも意識する」

恋愛でこれは公式のようなものだ。
もともと僕がお気に入りだったところへ
彼女の意識が乗ってきた。

互いに意識している。
それはもう十分にわかっていた。
しかし・・・半年間、それ以上にしようとは、しなかった。

12月25日。
会社の忘年会が開かれた。
この日の忘年会は、彼女たち新入社員チームが幹事を務めた。

なにも、クリスマス当日にしなくてもと思うのだが、
文句を言う人が・・・いない。
ある意味、恐ろしい職場だ。

十代のバイトの子からおっさんまで
ごちゃごちゃの忘年会だ。

ソツなく一次会が終了し、二次会へ。

二次会は、Sherry'Sという
オールディーズのバンド演奏があるCLUBだった。

大抵二次会はカラオケなのだが、
この日は、彼女らのチョイスでこうなった。

「こういうのも、なかなかいいじゃん」
「そうね〜」

みんな、結構ご機嫌だ。
途中、

「Hちゃん、ほら!踊るよ!!」

と、憎めない中年上司が彼女と踊りだした。

「きゃぁ〜あっはははは!!」

こんにゃろ、八方美人め。
わかってはいるけど、ちょっと面白くない。

・・・と思っていたら、
彼女が僕のテーブルにやってきた。

「あぁ〜、マーチンさん、お疲れさま〜!」
「ああ、お疲れ。ガンバってたね☆」
「はいーっ!楽しいですよー!
 マーチンさんも楽しんでますかーーっ!?」

げっ!

「まっ、まあね」

そんなこんなで5分くらい話をしていた。
そこで、僕がもう一度!!半年前のセリフを言ったのだ。

「あのさ、今度、二人で遊びにいかない?」
「・・・はい、いいですよ」
「え?ホントに?」
「はい」

え・・・これがタイミングっていうヤツ?
話を聞くと・・・彼と最近ものすごいマンネリらしい。

「彼の家に行って、することして。
 お風呂入って帰る・・・みたいな感じなんです」

やっぱり、タイミングだ。
でも、「今度とオバケ」は見たことない。
ええっと・・・

「じゃ、年末とか年始は?」
「ええっと、友達とスキーにいく約束が・・・。
 あとはシフト見てみないと・・・・」

そうなのだ。
ウチの職場は、シフト勤務で誰かが土日や年末年始も出勤になっている。
だから、二人とも一緒に休みの日というのは、そんなにないんだ。

「じゃ、年始あたりでシフトのいい日にしよう」
「・・・はい」

こんな話をした。
そして二次会も終わり・・・仲良しグループだけで三次会へ突入した。

今度こそ、大好きなカラオケ!
このときのメンバーは6人いたのだが、これが微妙なメンツだった。

男性4人、女性2人。
男性はいいとして、女性のふたり。
ひとりは、もちろんHちゃんだが、もうひとりは・・・
第42、43話「東京ラブストーリー」のTさんだったのだ。

この頃は、もう完全に余計な話は一切しない関係だった。
が・・・やっぱり微妙な気持ちだった。

しかしっ!!そんなことを気にしてはいられない。
さあ!歌うぞ〜!!

「愛するぅ〜より〜強くぅLastGood-bye!
 あの日のぼっくぅうは、たぁだ♪」  ※FILD OF VIEW 「Last Good-bye」より

このとき大好きだった、FILD OF VIEW の「Last Good-bye」を歌った。
そして、歌い終わったら・・・

Hちゃんも、Tさんも寝ていた。
しかも・・・

「なんじゃあ、こりゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

上司Nさんが「両手に花」状態で、肩を組んでニヤニヤしてる!
実は、この上司Nさんも、Hちゃん、Tさんが、超お気に入りだというのは、
職場の誰もが知っていた。

「うむむ・・・」

「マーチン、ほら。いけっ!」 ←友人I さん
「いくんだ!!」 ←友人Wくん

「よし!!」

僕は、ズカズカと上司NさんとHちゃんの間に割って入り、
手で、

「あなたは、そっち!!」

というサインを、上司Nさんに送った。
そして、Hちゃんを抱き寄せ、

「お〜い、大丈夫なの?」
「・・・は〜い。もう眠いです〜」

う、こっこれは!
いくしかない!!

「・・・出よっか?」
「・・・はい・・・」

寝ていたけれど、ちゃんと起きた。
が・・・当然終電などあるはずもなく、僕は階段を下りながら悩んでいた。

階段を出て、右へ曲がるか、左へ曲がるか。
右は駅へ向かう道。タクシー乗り場へ。
左は・・・ホテル街へ続く。

・・・。

右へ曲がってしまった。

ああーー!何をやっているんだ、僕は!

そして、池袋駅前の大通りへ出た。

今度こそ、ラストチャンス。
これを右へ曲がれば、もう一度ホテルの方へ行ける。
左は目の前がタクシー乗り場。

「ちょっと・・・散歩しようよ」
「・・・はい」

僕たちは、右へ曲がった。

「今日は盛り上がったよねー」

なんて、他愛のない話をしながら歩いた。
徒歩2分のところに公園がある。
その周りには・・・ホテルがいくつもあるんだ。

「・・・」

ここは、ぼろっちいからダメだな・・・。

一件目のホテルの入り口が過ぎた。
・・・この次のホテルで!

・・・よし!


「ねぇ・・・ちょっと、付き合ってよ」


ここで、彼女がなんと返事をしてくれたのか・・・覚えていない。
ただ、「スッ」と、一緒に来てくれたのは覚えている。

嬉しかった。

フロントで鍵をうけとって・・・
部屋に着いた。

ベッドの前で、彼女を抱きしめキスをした。
そして、ベッドに「ぐっ」と押し倒そうとしたときに、こう言ったんだ。

「・・・内緒ですよ」

そして、僕たちは初めて結ばれた。

・・・。

次の日。
Hちゃんは休み。僕は11時からの遅い出勤の日だった。

「同じ服着てると、絶対怪しまれるよね」
「うん。昨日の夜、二人で帰ったの知ってるもんね☆」

それを理由に、Hちゃんに服を持って帰ってもらった。
僕は新しいYシャツを買って、トイレで着替え、会社へ向かった。
あまり寝ていなかったけれど・・・気持ちのいい12月26日の朝だった。

この後。
シフトの都合が悪く、年内に僕たちが会社で逢う機会はなかった。

1週間後の1月2日、君から留守電が入っていた。
“あけましておめでとう。クリーニングができました”と。

あのとき、持って帰ってもらったYシャツが、
僕たちの縁をつないでくれた。

それから3日後。
君と僕は、新宿の「麻布茶房」にいた。
そして、4年と2ヶ月に渡る付き合いが始まったんだ。

・・・。

「内緒ですよ」

君が言ってくれたこの言葉。
僕は、とっても嬉しかったよ。

そして、君のこの一言は、本当に・・・
本当に、忘れられない一言になりました。

P.S.
内緒にできなくて、ごめん。


Form Martin


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