第47話 内緒ですよ 〜前編〜

「あー!マーチンさんだ〜。
 お疲れさまです〜」
「うわっ、お、お疲れさん」

ここは池袋、とあるゲーセン。
で、会社の休憩時間。

ひとりで昼ご飯を食べ、時間が余り、
会社に戻るのもシャクなんで、
ゲーセンで時間をつぶしていたんだ。

彼女はHちゃん、新入社員だ。

「よくわかったなぁ」
「はい〜」
「・・・お茶でも飲む?」
「はい!」

目の前にある喫茶店に移動しておしゃべり。
彼女には彼がいるらしい。
でも、最近マンネリ気味だ・・・と。

「ドライブ好き?」
「はい、好きですよ〜」
「じゃ、週末いこっか?」
「は・・・、えっと週末は用事が・・・」
「じゃ、来週いく?」
「・・・そうですね」

だめだな、こりゃ。
ダメ反応ぶりぶりだ。

Hちゃんは、愛想が良くて
新入社員の中では人気が高かった。
勿論、僕もお気に入り。

・・・で、誘ってみたわけ。

「社内恋愛はいやだ」と言う人へ。
その理由に、
「誘って断られたら気まずくなるから」ってよく聞きます。

ヘビーな気持ちで、告白や誘いをすると、
断られたときに確かにツライのです。

だから・・・、
「最初はかるくアタックする」のが基本ですよ。

さて、数日が過ぎて翌週の水曜日。

一応確認しとかないとな・・・。

彼女は僕の目の前の席なんだ。
だから話はしやすい。

・・・人がいない。
よし、今だ!

「あのさ、今週末ホントに行けそう?」
「あっ・・・、すみません、やっぱり用事が・・・」
「あっ、ああ、いいよ。了解」

ほら、ダメだったでしょ?

よえ〜。
今月で車 手放しちゃうのに・・・。
最後のドライブは不発だぁ〜。

しかし軽く流して、業務に支障をきたさない。
なんて、僕って偉いんだろう!

これが5月。
それからは、何もない平穏な日が半年以上続く。
・・・あ、ひとつだけ、忘れちゃいけない事があった。

仕事で、彼女に資料の作り方を教えていたんだ。
既に何度かやり直しをして、夜9時ころだった。

ここは、新入社員でも夜中まで残業する。
給料もいいが、人使いも荒い。

「じゃ、これとこれ作っておいて。
 俺はもう帰るからさ、明日の朝チェックするよ」
「はい、お疲れさまです」

特に意味はなく、
ただ帰りたくなって帰っただけだった。

翌朝。

「マーチン、ちょっと」

上司のI さんに呼ばれた。

やっべー・・・。
そう、実は、早く帰っていながら、
この日は遅刻をしたのです。

「・・・すみません」
「・・・Hが泣いてたぞ」
「はい?」
「マーチンさんに見捨てられたって。
 お前が帰ったあと大変だったんだからなぁ」

なにぃ〜・・・、なんでそうなるんだ?
ただ帰っただけなのに・・・。
あっ・・・

「おはよ」
「・・・おはようございます」

おわ、暗い!
どどどどうしよう?

二人で話をしたいけれど・・・
みんながいる中じゃ、それも不自然だ。

結局また残業時間になり、
僕は休憩室で・・・パンを食べていた。
相変わらず食欲はある。

その側を彼女が通った。

「ねぇ、腹減ったろ?
 一緒にパン食わない?」
「・・・あ、食べますぅ〜」

もう一個あったパンをあけ
半分ちぎって彼女に渡す。

全部あげろって?
いえいえ、半分こがポイントです。

「ほい」
「ありがとうございます」
「・・・腹減るよな〜」
「ホントですよぉ〜」

「あのさ、昨日の夜だけどさ、
 ・・・先に帰って悪かったな」
「え、別にいいですよぉ」
「・・・泣いてたくせに」
「・・・泣いてません」
「・・・。
 そっか、まぁいいや。
 パン食って元気出たら、
 早く残りを片付けようぜ」
「・・・はい」

特別な感情がなかったわけじゃない。
でも、それ以上にするつもりもなかった。

それから暫くして・・・
ふたりそろって休日出勤の日があった。
帰りにご飯でも食べようかと、居酒屋さんへ行った。

そこで、これまでの僕。
そして、これまでの彼女。
ふたりの恋を語り合った。

・・・僕の恋の仕方が気になったって。
この日から、
君は僕を意識するようになったって。
あとで教えてくれたよね。

半分こして食べたパン。

これが、僕たちにチャンスをくれた
魔法のアイテムだったんだね。

To Be Continued...


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