第47話 光り輝いたプラチナリング

「・・・何、これっ?」

おっ、気が付いたな?

「ねぇっ!?」
「・・・ん、おはよう」
「これっ・・・!」
「ん・・・?」
「これって・・・!?」
「うん、プレゼント」

一度別れた僕と彼女。
ひょんなことから、また逢うようになった。
そして、小旅行にでかけて・・・
誕生日に贈れなかった指輪をプレゼントしたんだ。

彼女が眠っている間にね。

彼女は「未だに指輪をもらったことがない」と
よく僕に漏らしていた。
これって、指輪が欲しいっ!っていうのと同じだよね。

そこで、聞いてみた。

「ふ〜ん。で、指のサイズっていくつなの?」
「知らない。自分で買ったこともないし」

おいおい。
・・・可愛くないなぁ。
だから、二十何年も指輪を貰えないんだよ。

別れた後に、初めて夜を一緒に過ごした時、
「そうだ、指輪!」と思った僕は
眠っている彼女の胸を・・・

違う!!!

指をずっと触っていた。
それでサイズを計った。

ん〜。
僕の小指−1くらいだ。
いや、−1なんだ!
絶対大丈夫だ!

週末高島屋デパートへ。
そしてリングコーナーをうろうろする。

ホントはじっと見たいんだけど、
立ち止まると、
店員さんがすぐに話し掛けてくるからイヤなんだ。

ナイスなの発見!
で、覚悟を決めてコーナーへ。

「指輪をお探しですか?」

ったり前だろー!!

・・・とは言いませんが。

「はい」
「今、新作が発表されまして・・・」

そんなこと聞いてねーよ!!

・・・とも言いませんが。

「あ、えと、これ見せてください」
「はい」

小指にはめてみる。
ちょいゆるい。
・・ということは、ダメだ。

「サイズは何号をお探しですか?」
「わかんないんです」
「・・・はぃ!?」
「本人サイズ知らないんですよ。
 えっと、僕の小指−1で探してるんですけど」
「あの〜、ご本人といらっしゃった方が
 よろしいかと思うのですが・・・」
「いえ、それはダメ。
 びっくりさせたいから」
「・・・」

さっきの指輪をとって聞いてみる。
「これ、何号です?」
「11号です」
「じゃ、9号を見せてください」

お、なかなかいいじゃん。
あ、これもいい。
うう!これも捨てがたい。

・・・しまった!

こういうものを買う時は
上を見てしまうと、絶対いいものが欲しくなるんだ。
いいのが欲しいけれど、ない袖はふれない。

んが、しかし!
見てしまった僕は、無理してない袖をふってしまう。

「お支払いは現金で?」
「いえ、カードでお願いします」

よわっ!!

まぁ、よかろう。
これで、喜ぶ顔が見れるぞ!!
「もしも、指輪があわなかったら」なんて微塵も思わない。
いいことだけを考えている姿は、まさしくプラス志向だ。



そして、夜中・・・。
指輪は、ぴったり彼女の指にはまったのだ。
我ながら・・・感動した。
あんなサイズの計り方で・・・

・・・
「うん、プレゼント」
「・・・ありがとう」
「・・・うん」
「なんかね・・・」
「うん?」
「女の子が指輪を欲しがるの・・・
 分かった気がする」
「・・・うん」

そして・・・
日が暮れるまで、二人は楽しい時間を過ごした。

週が明けて月曜日。
彼女はある決意をする。

もともと僕と別れた理由は、
他に好きな人ができて、付き合い始めたからだった。

その彼と、別れる決心をしたのだ。

「今日、仕事が終わったら話してくるから」

!!!・・・まだ早い!!と思った。

「もう、時間も決めて約束した」

・・・そうか。
「そっか、わかった。連絡待ってるね」
「うん」

こう言うしかなかった。
もう、信じて待つしかない。

部屋に帰り、弁当を開けるが・・・
食欲がない。

気になる。

携帯をバスルームの前に置いて、シャワーを浴びる。
かかってこない。

やがて・・・
時計が23時を指すころに連絡が入った。

「・・・どうだった?」
「ごめん、やっぱりもう付き合えない」
「え・・?」
「ごめん」
「なんで!?」
「・・・ごめん」
「ねぇ!?」
「・・・」
「ちょっと・・・
 話をしよう!今から行くから!」
「・・・」
「行くからね!」
「・・・」

直感は当たる。
特に、僕のは当たるんだ。

こういう時は、側で抱きしめた者が勝つ。
わかっていたことだ・・・。

車を飛ばして、彼女のマンションへ。

オートロックなので入れない。

【2・0・*】
ルルルル、ルルルル・・・

「・・・はい」
「俺。入れてよ」
「・・・入れられない」
「なんで?話をしようよ!」
「・・・ダメなの」

!もしや・・・

「・・いるの?」
「うん・・・」

なにぃ〜!!
それなら、俺が行くって言った時点で、
来るなって言えばいいものを・・・!

「じゃ、下でいいよ。降りてきて」
「・・・だめ」
「なんでよ!?それってないんじゃないの?」
「・・・今更話すことない」
「なにそれ!?」
「・・・」

・・・ダメだ。これじゃどうにもならない。
何か逢うための方法は・・・?
そうだ!

「わかった。じゃ、こないだの指輪を持ってきてよ。
 それぐらい、してくれてもいいでしょ?」
「もう投げた」
「は!?!!」
「窓から投げた」

!?

彼女の部屋は、ちょうど入り口の真上にある。
振り返るとそこには・・・

奴らはいなくて!!

かわいい小さな袋が落ちていた。

プレゼントした、そのままだ。

それを見て理解した。

指輪を窓から投げ捨てたのだ。

これで、僕は完璧にキレた。

「お前ぇ〜!!なに考えてんだぁ!!!
 おりて来い!!!!」
「!!!!」
「もういい。もういいから一回ぶん殴らせろ!」
「!!!!!!!」

ガチャガチャ!!
プーッーーーーーー。

インターホンを壊したようだ。
話にならないとは・・・こういうのを言うんだろう。

僕は、落ちている袋を拾って歩いた。
車に乗った。

無意識に友達に電話をする。
興奮して、ことのてんまつを喋りまくる。

少し・・・落ち着いた。

むなしい・・・。
涙が出る・・・。

二日前。
たった二日しかたっていない。
あれだけの感動を生んでくれた、この指輪が・・・
指輪が・・・

袋を開けた、その中では
ぶ厚いガラスでできた、ハートのリングケースが・・・

こなごなに砕けていた。

それは、映画のワンシーンのようだった。

かわいそうに・・・!!
指輪が、かわいそうでならなかった。

ケースをひっくり返して指輪を探す。

・・・。
・・・?
ない。
ないぞ!?

ダッシュで戻る。
ケースが砕けた時に、飛び出したに違いなかった。

無事でいてくれ!

そう思った。

午前1時30分。
10M手前ぐらいで、キラッと光るものが見えた。

あった!

しかし、駆け寄って抱きしめた、その指輪は・・・

グニャリと歪み・・・
ギザギザの傷だらけだった。

見れたものではなかった。

何もしらない通行人が踏んづけたのか、
既にそうなっていたのか、
それはわからない。

光り輝くプラチナリングが・・・。

変わり果てた姿だった。

僕はコンビニでレターセットを買った。
ボールペンも買った。
すぐに封を開け、手紙を書いた。

「君が信じられないことをするから
 指輪が信じられない姿になったよ」

こんなメッセージを残した気がする。

メッセージと粉々に砕けたケース・・・
それに、歪んだ傷だらけのリングをポストに投げこんだ。


この恋は終わった。


僕は、人の気持を踏みにじる人だけは許せない。

少なくとも・・・
僕は、話せば分かる人間のつもりだ。

「窓から、二人の想いを投げ捨てた」

彼女が投げたにしろ、彼が投げたにしろ・・・
それだけは、一生許せない。

そう思った。


これ以来・・・
僕は、指輪をプレゼントするのが怖くなってしまったよ。
君のこと、恨んではいません。
恨んではいませんが、とても残念でなりません。
もうあんなことは・・・
誰にもしないでくださいね。

それから1ヶ月半。

忘れた頃にやってきた、
VISAカードの請求に僕は白目をむいた。

そして思った。
やっぱり、一生許さんっっっ☆

Form Martin


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