第34話 なんてダサイ僕なんだ

東京生活最後の最後におきた
ちょっとお馬鹿な事件。

ちょうどこの頃世間では
『伝言ダイヤル』が出始めた頃だった。
ダイヤルQ2が下火になるかならないか
そんな時代だったと思う。

例の美味しい泊り込みのバイト。
あの部屋にも勿論電話があった。
悪賢い僕は・・・
そこで初めて伝言ダイヤルなるものに
チャレンジしたのだ!

簡単にシステムを説明するとこうだ。
男性が有料、女性は無料。
オープンメッセージと呼ばれる
不特定多数向けのメッセージを入れる。
それを聞いた異性から自分宛てに
メッセージが残される(逆もある)
というものだ。

女の子のメッセージには
「もしもしぃ〜、私はぁ〜
 神奈川に住んでる〜
 22歳のぉ〜、女の子です。
 今日私フリーなんです。
 誰か遊んでくれませんかぁ〜?」
と、まとも(?)そうなものから
「っふーん、イマね〜とってもHな気分なのぉ〜。
 私とエッチしたいひとぉ〜、連絡ちょうだぃ」
ウソつけ!このサクラがぁぁぁぁあ!
と色々あって聞くだけでも結構笑えた。

バイトが休みのある夜
TVを見ていたら電話が鳴った。

ルルルル、ルル

「はい」
「あ、あのーSです」
「あ!伝言の?」
「はい」
「ありがとー!
 こうやって電話くれたの初めて!」

ついに伝言でやり取りをしていた子と
連絡がとれた。
この時TVで見ていた番組を
彼女も見ていてその話で盛り上がった。
1時間も話した頃・・・

「ねぇ、会って話ししない?」
「えぇ〜、どうしよっかなぁ〜」
「そんなにヘンな男じゃないのは解ったでしょ?」
「うん。。。」
「待ち合わせ場所で僕を見て
 嫌だったら帰ればいいじゃん!」
「わかった、いいよ」

よぉっしゃっぁぁぁあー!
こんなのもアリなんだー。
伝言でも会えるものなのか〜。

この時既に22:30。
川崎の僕の部屋から彼女の住む
埼玉迄出かけていった。
埼玉は不得意分野だったので迷い
0:00過ぎに待ち合わせ場所に着いた。

来るかな・・・
「こんばんはぁ。。。」
「Sちゃん?」
「はい」

可愛いじゃん!
うきうき気分で彼女がお得意の
大宮駅前飲み屋さんへ。

「こういうのってサクラばかりかと
 思ってたよ〜」
「えへへ・・・」
「なに?」
「私、サクラだよ!」
「マァ〜ジでぇ〜!?」

そう、彼女こそ正真正銘の
サクラだった。

サクラの給料はそれなりにいいらしい。
自分宛てに男性がメッセージをいれると50円。
自分が男性宛てに入れると30円。
そして契約事項。

「知り合った男性とお会いしてはいけません」

馬鹿じゃねーか、この契約書作った奴は・・・
形だけ絶対必要ってヤツなんだろうけど。

「あはははは!今、会ってるジャン」
「そーなのよねぇ〜。だから悩んだんだよ」

そんな話で盛り上がっているうちに
時計は3:00を回っていた。

「どうしよっか?」
「うーん・・・」
「カラオケかドライブか??」
「どっちでもいいよ」
「じゃ、ドライブしよう!」

この決断が、
いや、質問自体が間違っていた。
「会えた」事実に浮かれていて
下心がなかったのだ。
デートプランを考えていなかった。
キッチリ下心を持ってデートする方が
たとえフラレるとしても
ケジメのあるデートになるのだ。

僕の得意エリアは横浜以西。
埼玉はよく分からない為
首都高速を使って「とりあえず」横浜へ出た。
「とりあえず」ベイブリッジへ行き
「とりあえず」山下公園を散歩した。
すると「とりあえず」のうちに夜が更けるのだ。

酒を飲んでの徹夜ドライブ。
誰でも眠くなる。
現在位置横浜。
僕の心境。
「眠りたい。。。」

夜も明け、お互い酔いも覚めて
今更ホテルへ行こうとも言えない。
大して変わらないがこう言うしかない。

「僕ん家、来ない?」
「え〜、やだ〜。帰る〜」

・・・
まぁ、そうだろうな〜。
本当に疲れてるのに。。。
かぁ〜、今から埼玉かぁー。

渋々埼玉まで彼女を送る。
ただ送るだけならいいが
この時間帯は強烈な渋滞タイムなのだ。

シャレになってねぇ。

そう思いながら運転するから
車内は超険悪ムード。
早く降ろそうと頑張って送った。
しかし!!
彼女を送りとどけ
結局僕の部屋に戻ったのは
昼を過ぎて14:00だった。



後日、友人にこの話をした。

「・・・って事があったんだよ〜。
 超シャレになってないだろ?」
「だっせー!お前、馬鹿じゃねーか?」
「へ?」
「そんなの、どっかに捨てりゃいいんだよ」
「捨てる??」
「そう、コンビニでも寄って
 『コーヒー買って来て』とか言ってさ、
 そのまま逃げりゃいいんだよ」
「おおぉぉおおお!そうだったのかぁ!!」
「こんな事で感動するな。。。」
「いいや、感動した。。。」
「・・・良かったな」

やっぱり青い。
なんてダサイ僕なんだ。
こんな素晴らしい発想はなかった。
え?ひどいって?
いいんだよ、こんなのお互い様さ。
子供じゃないんだから一人で帰るさ。
山奥に捨てるんじゃないんだから。

伝言ダイヤルはこれっきりやってません。
君と会えて僕はいい勉強をしました。
そして、この勉強が役立つ日が
数年の時を経て、やって来る事になるのです。


Form Martin


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