第28話 100万ドルの夜景 

「・・・もう12時かぁ。そろそろ寝るかな・・・」

そう思って、部屋の窓から右ちょっとナナメを見た。
すると、Yちゃんも部屋の窓からこっちを見ていた。

「おやすみぃ〜☆」

と、大きな声が聞こえそうなくらい、元気よく手をふる彼女。
僕も手をふった。

家が近いと、こんなドラマみたいなことが本当におこるんだと、
このとき、初めて知った。

教育実習が始まる前の金曜日に結ばれた僕たちは、
翌月曜日、はじめて顔を合わせた。

「・・・おはよう」

「おはよ」

「ねぇねぇ?」

「ん?」

「・・・これ」


小さなメモだ。


「・・・じゃ」

ガサガサ。

『今日、終わった後に焼肉の福太郎の前で待ってます』

「ぶっ(笑)」

福太郎は、僕の町内にある焼肉屋さんだ。
何も焼肉屋さんの前で待ち合わせしなくても・・・と思ったが、
それも彼女のかわいいところだ。

・・。

その日の授業と部活が終わった。
福太郎に行かなきゃ。・・・の前か☆

彼女は、ちゃんと先に待っていた。
家にゴハンがあるので、焼肉を食べて帰るわけにもいかない。

福太郎から海まで歩いて1分。
僕たちは海を散歩した。


「・・・」

「・・・」

「この海くるの、久しぶりだ・・・」

「ウチも・・・」

「よく、ここでさ、釣りしてたんだよね」

「ふーん、そうなんだ・・・」


二人で会ったものの、何を話したらいいかわからない。


「・・・」

「ウチ・・・どうしたら、いいの?」

「・・・彼のこと?」

「・・・うん」

「こないだのこと、言っちゃう・・・?」

「・・・なんて言うの?」


確かにそうだ。


「僕のこと・・・好き?」

「・・・好きじゃなきゃ、しないもん」

(・・・だよな。でも、僕だってそうだ)


思っても言わない。
・・・男ってズルイ。

いや、女だって、十分ズルイ!
だから、これでいいのだ☆

「今すぐ・・・結論出さなくてもいいんじゃないかな?
 まだ実習、二週間あるんだし」

「それはそうだけど・・・」

「僕も、今すぐ結論は出せないし、
 多分・・・君だってそうだろう?」

「・・・ん」

「だから、取り合えず仲良くやっていこうよ。
 ・・・僕も君のことが好きだから、そうなったんだし」

「!!」


突然、彼女の顔が明るくなった。


「うん!わかった!」

「・・・よかった。元気になって。じゃあ、家に帰ろ」


家は線路をはさんで向かい同士なので、帰り道も一緒。
家に着いて、ゴハンを食べて、お風呂に入っていろいろ考えた。

あてもなく、いろいろ、イロイロ考えた。


「・・・もう12時かぁ。そろそろ寝るかな・・・」

そう思って、部屋の窓から右ちょっとナナメを見た。
すると、Yちゃんも部屋の窓からこっちを見ていた。

「おやすみぃ〜☆」

と、大きな声が聞こえそうなくらい、元気よく手をふる彼女。
僕も手をふった。

実習は楽しく進んでいった。
特に・・・

「かぁ〜んちゃん! ネクタイ曲がってるよぉ〜☆」
  ※神ちゃん(かんちゃん)と呼ばれてました。

この子はIちゃんという。
好意は持ってくれているみたいで、人前でもこれ。

1つ年下の子なんだけど、ムチャクチャ美人。
美人すぎて何もできなかったというか、先約がいたからというか☆

「えっ!?あ、ありがとっ」

「じゃ、授業ガンバってきてね!」

「う、うんっ」

じーーっ・・・ ←Yちゃん

うわー、妬いてるよ。妬いてるよ。

4月30日、教育実習最後の日。
僕は、大好きなギターで生徒たちにプレゼントすることにした。

DEENの「このまま君を奪い去りたい」

「こぉ〜のまぁま、君ぃ〜だけを、
 う〜ばいぃ〜去ぁりぃたぁ、いぃーーい〜♪
 やがてぇ、朝のひかりぃ、おとずぅれぇる前に〜♭」

歌いながらふと見上げたら、廊下は他のクラスの生徒でいっぱいになっていた。
みんなが歌ってくれていて・・・嬉しかった。

2週間の実習があっという間に終わった。
ということは・・・僕たちのことも決めなければいけなかった。

でも、答えはお互いに出ていなかった。
ただ、このままはイヤだった。


「ねぇ、旅行に行こうよ?」

「えっ・・・?」

「旅行。せっかくのGWだしさ」

「うん・・・。わかった、いいよ☆
 どこに行くの?」

「神戸。神戸って友達としか、行ったことないんだよね」

「ああー、ウチもない! 行こう行こう!」

「よし、決まり!」


「あっ・・・」

「どした?」

「今からなんて、ホテルとか取れるの? GWなんだよ?」

「大丈夫、大丈夫。なんとかなるって☆
 万が一、ダメだったら・・・」

「ダメだったら?」

「ラブホに泊まればいいじゃん☆」

「きゃはははははっ!」


うん、プラス思考な僕たち。
恋愛はタイミングとノリって、すごく大事だと思う。


ゴオォォォーーーーーーッ!!

というわけで、新幹線で神戸へ。

「で、今日から二名なんですけど・・・」

「あ、誠に申し訳ございません。
 今週は満室を頂いておりまして、せっかくですが・・・」

「あ、わかりました。ありがとうございました」

がちゃ。

「ふぅ〜・・・ココもダメかぁ」

「るるぶ/神戸」のホテルリストを見て、上から順にかけまくった。
もちろん、死にそうに高いのは除いて。
僕たちまだ学生ですからー☆

1,2,3・・・うん、ちょうど20軒。
20軒かけてダメだってことは、もうキツイかなー。

さすがの僕もバテてきた。

「ねぇ、ここまでかけたからさ、
 この先に電話してみてくれない?」

「うん、いいよー」

「あ、テレカ、これ使って」

「ありがとー」


彼女がデッキに電話をかけに行った。
しかし、20軒かけてダメだってことは、
マジでラブホにな・・・


「ただいまぁー」

「おわっ、早かったなぁ」

「取れたよーー♪」

「え゛っ??」

「一泊目と二泊目、違うホテルでもいいよね?」

「あっ、ああ。取れればいいよ」

「けど、すごーい。本当に取れるもんだね。
 マーチンの言う通りだ☆」

「で、でしょーーーっ♪」


信じられん。っていうかスゴイ。
こうして、当日ホテルを取ることができた僕たちは神戸に行った。

「この、海の側の公園に行ってみようよ?」

「うん、いいよー。 ・・・なんていう公園?」

「・・・知らん(笑)」


行ってみたら、茶色の大きな魚のモニュメントがあった。
鯉が跳ねているような感じだ。


「これ、かわいくない?」

「うんうん♪」

「写真取ろうよ☆」


鯉の前で写真を取った。
この頃、僕は写真をたくさん撮るようになっていた。

僕は写真を撮る習慣はあまりなかったんだけど、
親友Iくんの家に行ったとき、彼のサークル旅行などのアルバムを見て、
「いいなぁ」って思ったからだ。

ちなみに「シャるンです。パノラマ」が流行っていた。 ←「写るンです」よ☆

たくさん写真を撮って、ホテルに帰った。
ホテルに戻ると、少し・・・雨が降っていた。

ホテルの側に小高い丘がある。
そこに、フラワーガーデンがあった。

「せっかくだから、行ってみようよ」

「うん、いいよ」

まだ小雨が降っていたので、ビニール傘をさして行ってみた。
花を見るというよりも、夜景を見たかったんだ。

「うわぁ・・・」

「・・・キレイだね・・・」

「うん・・・これが100万ドルの夜景かぁ・・・」

「うん・・・」

ここでも僕たちは写真を撮った。

夜、彼女が寝てしまった後、僕は目が冴えて寝られなかった。
ふと・・・彼女の荷物が気になった。
そこに、本・・・というかノートがあった。

「・・・なんだろう?」

日記帳だ。

そういえば、彼女は日記をつけていると言っていた。

・・・気になる。

・・・。

僕と彼女が出会った日、4月16日。


「!!」


ぐしゃぐしゃに書きなぐられたページがあった。
「ぐしゃぐしゃ」って、子供が落書きしたような感じだ。

そして、一言。

「ウチは悪い女になりました」

・・・。


ページをめくってみた。
彼から連絡があったんだろうか。

「“早く帰って来い”なんて優しく言わんといて」

・・・日記を閉じてカバンに戻した。


更に僕は眠れなくなった。

・・・。

あっという間の二泊が終わり、お別れのときがきた。
彼女は岡山へ、僕は東京へ戻る。


「ねぇ・・・」

何が言いたいのかはわかるが・・・

「また・・・すぐに会えるよ」

「いつ・・・?」

「・・・夏には会えるさ。徳山に戻るでしょ?」

「・・・」


僕には、まだ答えが出ていなかった。
彼女は・・・出ていたけど言えなかったんだと思う。

ものすごく遠距離だったので、
正直、僕はまだ付き合おうとは思えなかった。


ジリリリリリ・・・

「まもなく、ひかり号 東京行きがまいります。
 列車は前から、16号車、15号車の順で・・・」


「じゃ・・・」

「・・・」

「またね」

「・・・うん」


彼女の目には涙が浮かんでいた。
でも・・・僕には、これ以上言えなかった。

新幹線の中で考えた。

「どうしたら いいんだろう」

「ううん・・・」

「どうしたら いいんだろう・・・」

ぐるぐる、ぐるぐる、
頭の中は同じことの繰り返しだった。

でも・・・楽しかった。
すごく、楽しい旅行だった。
すごく、楽しい教育実習だった。

・・・。

雨の中、傘をさして君に撮ってもらった写真。
僕の超お気に入りになったこと、覚えていますか。

僕は、さっきそれを思い出して・・・
13年ぶりに、アルバムの中から見つけました。

P.S.
鯉がいたあの公園、メリケンパークって言うんだって。
僕にとって、とっても思い出深い公園になりました。


Form Martin


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