「・・・もう12時かぁ。そろそろ寝るかな・・・」
そう思って、部屋の窓から右ちょっとナナメを見た。
すると、Yちゃんも部屋の窓からこっちを見ていた。
「おやすみぃ〜☆」
と、大きな声が聞こえそうなくらい、元気よく手をふる彼女。
僕も手をふった。
家が近いと、こんなドラマみたいなことが本当におこるんだと、
このとき、初めて知った。
教育実習が始まる前の金曜日に結ばれた僕たちは、
翌月曜日、はじめて顔を合わせた。
「・・・おはよう」
「おはよ」
「ねぇねぇ?」
「ん?」
「・・・これ」
小さなメモだ。
「・・・じゃ」
ガサガサ。
『今日、終わった後に焼肉の福太郎の前で待ってます』
「ぶっ(笑)」
福太郎は、僕の町内にある焼肉屋さんだ。
何も焼肉屋さんの前で待ち合わせしなくても・・・と思ったが、
それも彼女のかわいいところだ。
・・。
その日の授業と部活が終わった。
福太郎に行かなきゃ。・・・の前か☆
彼女は、ちゃんと先に待っていた。
家にゴハンがあるので、焼肉を食べて帰るわけにもいかない。
福太郎から海まで歩いて1分。
僕たちは海を散歩した。
「・・・」
「・・・」
「この海くるの、久しぶりだ・・・」
「ウチも・・・」
「よく、ここでさ、釣りしてたんだよね」
「ふーん、そうなんだ・・・」
二人で会ったものの、何を話したらいいかわからない。
「・・・」
「ウチ・・・どうしたら、いいの?」
「・・・彼のこと?」
「・・・うん」
「こないだのこと、言っちゃう・・・?」
「・・・なんて言うの?」
確かにそうだ。
「僕のこと・・・好き?」
「・・・好きじゃなきゃ、しないもん」
(・・・だよな。でも、僕だってそうだ)
思っても言わない。
・・・男ってズルイ。
いや、女だって、十分ズルイ!
だから、これでいいのだ☆
「今すぐ・・・結論出さなくてもいいんじゃないかな?
まだ実習、二週間あるんだし」
「それはそうだけど・・・」
「僕も、今すぐ結論は出せないし、
多分・・・君だってそうだろう?」
「・・・ん」
「だから、取り合えず仲良くやっていこうよ。
・・・僕も君のことが好きだから、そうなったんだし」
「!!」
突然、彼女の顔が明るくなった。
「うん!わかった!」
「・・・よかった。元気になって。じゃあ、家に帰ろ」
家は線路をはさんで向かい同士なので、帰り道も一緒。
家に着いて、ゴハンを食べて、お風呂に入っていろいろ考えた。
あてもなく、いろいろ、イロイロ考えた。
「・・・もう12時かぁ。そろそろ寝るかな・・・」
そう思って、部屋の窓から右ちょっとナナメを見た。
すると、Yちゃんも部屋の窓からこっちを見ていた。
「おやすみぃ〜☆」
と、大きな声が聞こえそうなくらい、元気よく手をふる彼女。
僕も手をふった。
実習は楽しく進んでいった。
特に・・・
「かぁ〜んちゃん! ネクタイ曲がってるよぉ〜☆」
※神ちゃん(かんちゃん)と呼ばれてました。
この子はIちゃんという。
好意は持ってくれているみたいで、人前でもこれ。
1つ年下の子なんだけど、ムチャクチャ美人。
美人すぎて何もできなかったというか、先約がいたからというか☆
「えっ!?あ、ありがとっ」
「じゃ、授業ガンバってきてね!」
「う、うんっ」
じーーっ・・・ ←Yちゃん
うわー、妬いてるよ。妬いてるよ。
4月30日、教育実習最後の日。
僕は、大好きなギターで生徒たちにプレゼントすることにした。
DEENの「このまま君を奪い去りたい」
「こぉ〜のまぁま、君ぃ〜だけを、
う〜ばいぃ〜去ぁりぃたぁ、いぃーーい〜♪
やがてぇ、朝のひかりぃ、おとずぅれぇる前に〜♭」
歌いながらふと見上げたら、廊下は他のクラスの生徒でいっぱいになっていた。
みんなが歌ってくれていて・・・嬉しかった。
2週間の実習があっという間に終わった。
ということは・・・僕たちのことも決めなければいけなかった。
でも、答えはお互いに出ていなかった。
ただ、このままはイヤだった。
「ねぇ、旅行に行こうよ?」
「えっ・・・?」
「旅行。せっかくのGWだしさ」
「うん・・・。わかった、いいよ☆
どこに行くの?」
「神戸。神戸って友達としか、行ったことないんだよね」
「ああー、ウチもない! 行こう行こう!」
「よし、決まり!」
「あっ・・・」
「どした?」
「今からなんて、ホテルとか取れるの? GWなんだよ?」
「大丈夫、大丈夫。なんとかなるって☆
万が一、ダメだったら・・・」
「ダメだったら?」
「ラブホに泊まればいいじゃん☆」
「きゃはははははっ!」
うん、プラス思考な僕たち。
恋愛はタイミングとノリって、すごく大事だと思う。
ゴオォォォーーーーーーッ!!
というわけで、新幹線で神戸へ。
「で、今日から二名なんですけど・・・」
「あ、誠に申し訳ございません。
今週は満室を頂いておりまして、せっかくですが・・・」
「あ、わかりました。ありがとうございました」
がちゃ。
「ふぅ〜・・・ココもダメかぁ」
「るるぶ/神戸」のホテルリストを見て、上から順にかけまくった。
もちろん、死にそうに高いのは除いて。
僕たちまだ学生ですからー☆
1,2,3・・・うん、ちょうど20軒。
20軒かけてダメだってことは、もうキツイかなー。
さすがの僕もバテてきた。
「ねぇ、ここまでかけたからさ、
この先に電話してみてくれない?」
「うん、いいよー」
「あ、テレカ、これ使って」
「ありがとー」
彼女がデッキに電話をかけに行った。
しかし、20軒かけてダメだってことは、
マジでラブホにな・・・
「ただいまぁー」
「おわっ、早かったなぁ」
「取れたよーー♪」
「え゛っ??」
「一泊目と二泊目、違うホテルでもいいよね?」
「あっ、ああ。取れればいいよ」
「けど、すごーい。本当に取れるもんだね。
マーチンの言う通りだ☆」
「で、でしょーーーっ♪」
信じられん。っていうかスゴイ。
こうして、当日ホテルを取ることができた僕たちは神戸に行った。
「この、海の側の公園に行ってみようよ?」
「うん、いいよー。 ・・・なんていう公園?」
「・・・知らん(笑)」
行ってみたら、茶色の大きな魚のモニュメントがあった。
鯉が跳ねているような感じだ。
「これ、かわいくない?」
「うんうん♪」
「写真取ろうよ☆」
鯉の前で写真を取った。
この頃、僕は写真をたくさん撮るようになっていた。
僕は写真を撮る習慣はあまりなかったんだけど、
親友Iくんの家に行ったとき、彼のサークル旅行などのアルバムを見て、
「いいなぁ」って思ったからだ。
ちなみに「シャるンです。パノラマ」が流行っていた。 ←「写るンです」よ☆
たくさん写真を撮って、ホテルに帰った。
ホテルに戻ると、少し・・・雨が降っていた。
ホテルの側に小高い丘がある。
そこに、フラワーガーデンがあった。
「せっかくだから、行ってみようよ」
「うん、いいよ」
まだ小雨が降っていたので、ビニール傘をさして行ってみた。
花を見るというよりも、夜景を見たかったんだ。
「うわぁ・・・」
「・・・キレイだね・・・」
「うん・・・これが100万ドルの夜景かぁ・・・」
「うん・・・」
ここでも僕たちは写真を撮った。
夜、彼女が寝てしまった後、僕は目が冴えて寝られなかった。
ふと・・・彼女の荷物が気になった。
そこに、本・・・というかノートがあった。
「・・・なんだろう?」
日記帳だ。
そういえば、彼女は日記をつけていると言っていた。
・・・気になる。
・・・。
僕と彼女が出会った日、4月16日。
「!!」
ぐしゃぐしゃに書きなぐられたページがあった。
「ぐしゃぐしゃ」って、子供が落書きしたような感じだ。
そして、一言。
「ウチは悪い女になりました」
・・・。
ページをめくってみた。
彼から連絡があったんだろうか。
「“早く帰って来い”なんて優しく言わんといて」
・・・日記を閉じてカバンに戻した。
更に僕は眠れなくなった。
・・・。
あっという間の二泊が終わり、お別れのときがきた。
彼女は岡山へ、僕は東京へ戻る。
「ねぇ・・・」
何が言いたいのかはわかるが・・・
「また・・・すぐに会えるよ」
「いつ・・・?」
「・・・夏には会えるさ。徳山に戻るでしょ?」
「・・・」
僕には、まだ答えが出ていなかった。
彼女は・・・出ていたけど言えなかったんだと思う。
ものすごく遠距離だったので、
正直、僕はまだ付き合おうとは思えなかった。
ジリリリリリ・・・
「まもなく、ひかり号 東京行きがまいります。
列車は前から、16号車、15号車の順で・・・」
「じゃ・・・」
「・・・」
「またね」
「・・・うん」
彼女の目には涙が浮かんでいた。
でも・・・僕には、これ以上言えなかった。
新幹線の中で考えた。
「どうしたら いいんだろう」
「ううん・・・」
「どうしたら いいんだろう・・・」
ぐるぐる、ぐるぐる、
頭の中は同じことの繰り返しだった。
でも・・・楽しかった。
すごく、楽しい旅行だった。
すごく、楽しい教育実習だった。
・・・。
雨の中、傘をさして君に撮ってもらった写真。
僕の超お気に入りになったこと、覚えていますか。
僕は、さっきそれを思い出して・・・
13年ぶりに、アルバムの中から見つけました。
P.S.
鯉がいたあの公園、メリケンパークって言うんだって。
僕にとって、とっても思い出深い公園になりました。
Form Martin